①作者は何世紀、どの国の人か
19世紀フランスのノルマンディー地方の裕福な家庭に生まれた。
ギュスターヴ・フローベールの弟子。
②その時代のその国では何が起こっていたか
普仏戦争
フランス革命によって、王政は崩壊し、19世紀の貴族に昔のような栄華はない。
教会もまた力は絶対ではない。名誉や宗教といった旧来の価値観が揺らぎブルジョワという新しい階級が誕生し、「お金」という新しい価値観が全てを支配し始める。
③あなたが本の中で最も印象的だった場面はなにか
主人公ジャンヌが夫の不倫などから、「人間」そのものに対する幻滅を感じ、軽蔑し、「こんなはずではなかったのに」と回顧する。最後の一文でロザリがいう言葉「ねえ、ジャンヌ様、人生ってのは、皆が思うほど良いものでも、悪いものでもないんですね。」
ジャンヌにとって人生とはどう考えてもよいものではなかったはず。
最後、孫を抱いたことでそれまでのマイナスが一気に帳消しになったとでもいうのか。
④あなた自身が最も生きにくく感じていることはなにか
自分自身のメンタルが安定しないこと。
⑤この本を読み終えたあとで、世界とあなたとの関わり方はどう変わったか
新婚旅行から帰ってくると”するともう何もすることはないのだ。今日も、明日も、また永久に。という心境になるジャンヌと自分自身を重ねてしまう部分がある。
なにか自分にとって大切な価値観や、傾倒する対象をつねに追い求めている感覚に対する共感。
最終的に「ねえ、ジャンヌ様、人生ってのは、皆が思うほど良いものでも、悪いものでもないんですね。」という最後の言葉に導かれる。人生に価値のあるものなんて何もないんですね、といっているように思えてしまう。ただ過ぎていくものなんですね、と。
⑥作者はいつ、どのように死んだか
1878年ごろから神経系の病を抱えた。神経衰弱、頭痛、不眠、さらには自らの二重性に苦しんだ。その苦しみから逃れようと麻薬に手を出し、症状が悪化。精神病院への入退院をくりかえす。さらには自殺未遂までするようになり、デビューからわずか十余年、42歳の若さで死去。
⑦その本は現代までにどのような受容のされかたをしてきたか、そしてそのことについてあなたはどう思うか
ジャンヌが一方的に可哀想という見方は少ない。
むしろ、主体性がなく自らの運命を自らで切り開く行動に出ることもなく、夫の言いなり。
自業自得である的な見方も多い。
「アーサー王物語」のなかのひとつ「ガウェインの結婚」にある逸話、「すべての女性が最も望むことは何か」
それは「自分の意志をもつこと」であるという話、ジャンヌには女性の最も望むことであるはずの意志をもつということが足りなかったのか。
⑧ハイライト
「ジャンヌは、夫と自分とのあいだが薄布で隔てられているかのように感じていた。二人の人間が、本当に魂の底まで、思いの奥底までひとつになることはできないのだと、ジャンヌは初めて思った。肩を並べて歩き、ときに抱き合うことはあっても、ひとつに溶け合うことはなく、心の底では誰もが生涯一人ぼっちなのだ」
「夫に見捨てられたのに、それほどつらいと思わないのはどうしてだろう。人生なんてこんなものなのだろうか。この結婚は間違いだったのだろうか。もうこの先、自分の人生には何も残っていないのだろうか。 もし、ジュリアンが美男子のまま、身だしなみに気をつけ、エレガントで魅力的だったら、二人の関係が冷めたことをもっと嘆いただろう」
「男爵様、あなただって、遊んだことはあったでしょう。胸に手をあてて考えてごらんなさい。どうでしょう」ぎくりとした男爵は神父の前で足を止める。神父はさらに続ける。「ほら、あなただって皆と同じようなものでしょう。あなただって、あの娘のような女中に手を出したことがないとは限らない。ねえ、皆同じようなことをやっているんですよ。だからといって、あなたの奥様が不幸だったとか、奥様への愛が減ったとか、そういう話じゃないわけでしょう」 動転した男爵はそのまま動かない。 そうだった。確かに、そうしたことがあった。しかも何度も。機会がありさえすれば、そのたびに。同じ屋根の下にいる妻のことなど考えなかった。きれいな娘がいれば、妻の身の回りを担当する女中だろうと、躊躇することなく手を出した。自分も卑怯者なのだろうか。どうしてジュリアンの態度は許せなかったのだろう。自分だって、同じことをしたのに、それが罪だとは考えさえしなかった」
「そう、自分だって彼を「良い方」だと思ったのだ。だからこそ、自分は彼の前に身を捧げ、生涯を共にする契りを結んだ。だからこそ、結婚以外のすべての希望を捨てた。あらゆる計画を諦め、将来に残されていたすべての可能性を捨てたというのに。彼女は結婚という穴に落ちたのだ。這い上がろうにも 縁 のない穴。惨めで悲しい絶望の穴。それもこれも、ロザリと同じように、彼を「良い方」だと思ったことから始まったのだ」